移住者の声
1枚の板が形になるおもしろさ。加茂の伝統工芸と等身大で向き合う22歳の職人暮らし

新潟県加茂市。古くから「北越の小京都」と呼ばれ、風情ある街並みが残るこの場所に、2026年春、ひとりの職人を志す若者がやってきました。上越市出身の舘岡柊介さん(22)。山形県の大学で製品デザインを学んだ後、伝統ある「加茂桐箪笥」の技術に魅せられ、地域おこし協力隊として野本桐凾製作所の門を叩きました。等身大でまっすぐに木と向き合う、舘岡さんの日々の暮らしとこれからの挑戦についてお話を伺いました。
| 項目 | 内容 |
| 氏名 | 舘岡 柊介(たておか しゅうすけ)さん |
| 年齢 | 22歳 |
| 移住時期 | 2026年4月 |
| 移住元 | 新潟県上越市(山形県の大学を経て加茂市へ) |
| 現職 |
加茂市地域おこし協力隊(『野本桐凾製作所』にて勤務) |

ものづくりを仕事に。大学での出会いから加茂の工房へ
まずは、ものづくりの道を志したきっかけと、これまでの経歴を教えてください。
子どもの頃からものづくりが好きで、将来はそれを仕事にしていきたいという思いがありました。それで山形県にある美術系の大学に進学し、実際の販売を前提とした「製品デザイン」を専攻しました。大学2年生のときに選択科目で木工を選んだことが、木を使ったデザインに興味を持つ大きなきっかけになりました。授業では主に椅子などの家具を作っていました。
そこから、加茂市の伝統工芸である「桐箪笥」に着目されたのはなぜですか?
大学2、3年の頃に桐箪笥に興味が湧いて、2年生のときには別の工房で半年間、桐箪笥作りを経験する機会があったんです。その時間を通じて、桐製品の持つ魅力にすっかり引き込まれました。その後、3年生のときにインターンシップでこちらの野本桐凾製作所に応募し、ご縁があって新卒として採用していただくことになりました。
上越市から山形県を経て、加茂市へ来られたわけですが、移住への抵抗はありませんでしたか?
以前にも何回か加茂市を訪れたことがあったので、抵抗は全くありませんでした。街の様子を見ていて、都会すぎず田舎すぎず、スーパーやカフェなどお店もあって「程よく住みやすい街だな」と感じていました。日々の生活の利便性がしっかりあるのはありがたいです。
妥協のない職人の世界。1枚の板が形になる達成感
4月に着任されてから数ヶ月が経ちましたが、普段はどのような作業をされているのですか?
主に桐箪笥の制作をしていますが、現代の桐箱「想ひ凾(おもいはこ)」という自社製品の製作も行っています。他にも、店舗什器や展示用の台、小物を飾るような小さめの箱など、”桐凾製作所”の名前にとどまらず、本当に幅広い製品づくりを任せてもらっています。
実際に職人として活動してみて、難しさを感じる部分はどこでしょうか。
まだ始めて数ヶ月なので大変なことばかりですが、特に難しいのは最後の「仕上げ」の工程です。表面を削って仕上げる際の加減がとても繊細で。その絶妙な加減を見極めるのが、やっぱり今の一番の苦労ですね。
では逆に、仕事の中で楽しさや面白さを感じるのはどんな瞬間ですか?
最初はただの1枚の木の板なのですが、自分たちで切ったり加工したりしていくうちに、だんだんと1つの製品の形になっていくんです。その過程を見ているときや、完成したときの達成感はすごく大きいですね。パーツごとに作っていく中で、「あ、ここは自分が作った部分だな」と分かると、やっていておもしろいなと感じます。
職場の先輩方や、代表の野本さんの印象はいかがですか?
皆さん、基本的にはとても優しく丁寧に教えてくださいます。ただ、扱う「木」はどれも高価なものですし、高級品を作っているという自負があるからこそ、作業において一切の妥協は許されません。そういった物作りへの真摯な姿勢には、職人の世界ならではの心地よい厳しさを感じています。

伝統を現代の暮らしへ。桐が持つ新しい可能性
若い世代の目から見て、加茂の伝統工芸や桐製品にはどのような可能性があると感じますか?
桐には調湿性(防湿性)や気密性が高いという、優れた特性があります。その強みを生かして、例えば現代の暮らしに合わせて、自分の大事なコレクションを保管できるような「ディスプレイ用のボックス」を作ってみるのもいいなと思っているんです。大きな家具だけでなく、部屋にちょっと置いておけるような身近で小さめな家具など、現代のライフスタイルに寄り添ったアプローチをしていければ、もっと可能性が広がるのではないかと感じています。
地域おこし協力隊としてのこれからの目標や、挑戦したいことを教えてください。
まずは目の前にある、箪笥を加工するための基本的な技術をしっかりと身につけることが第一です。その上で、3年間の任期中にできれば自分のオリジナル製品を形にして、販売するところまで挑戦してみたいですね。任期が終わった後の具体的なことはまだ模索中ですが、このまま加茂市に残り、継続して桐箪笥やものづくりに関わっていきたいなというビジョンを持っています。
最後に、地方への移住や伝統工芸の世界を目指す同世代の方へメッセージをお願いします。
就職を考えるとき、どうしても東京などの大都市や、誰もが知る有名企業に目が向きがちかもしれません。でも、視点を広げてみると、新潟県内にも素晴らしい技術を持った企業や、魅力的な伝統工芸の工房がたくさんあります。ぜひ、そういった地域の足元にある魅力に気づき、再発見してみてほしいなと思います。加茂市も含めて、新潟はとても住みやすくて良いところですので、ぜひ気軽に遊びに来てください。

■ 【コラム】舘岡さんのお気に入り。加茂市のおすすめリフレッシュ法
仕事帰りのひとときや休日に、舘岡さんがお気に入りとして挙げてくれたのが、まちなかから車で15〜20分ほどの場所にある温泉施設「美人の湯」です。「少し距離はありますが、それが気にならないくらいお湯が良くて、すごくリフレッシュできるんです」と笑顔で話してくれました。
また、5月になると加茂川の空いっぱいに泳ぐたくさんの「こいのぼり」の景色も、お気に入りのひとつなのだとか。休日は車で商店街へ出かけ、お気に入りのお店「AMEYA AISU」で美味しいアイスを食べるなど、加茂市の街並みや季節の移ろいを、等身大のペースで満喫している様子が印象的でした。