移住者の声
「やってみれば、なんとかなる」——新卒で東京から加茂市へ。流れに身を任せて見つけた、伝統工芸と丁寧な暮らし

古くから「北越の小京都」と呼ばれ、心地よい自然とものづくりの文化が息づく新潟県加茂市。この街に2026年春、大学卒業と同時に東京から移住してきたのが箭内理乃さんです。現在は地域おこし協力隊として、野本桐凾製作所で職人の技を学んでいます。「まずは行ってみよう」と自然体で語る箭内さんに、伝統工芸のお仕事や、初めての1人暮らしで開拓した日々の楽しみについてお話を伺いました。
| 項目 | 内容 |
| 氏名 | 箭内 理乃(やない りの)さん |
| 年齢 | 23歳 |
| 移住時期 | 2026年4月 |
| 移住元 | 東京都江戸川区 |
| 現職 |
加茂市地域おこし協力隊(『野本桐凾製作所』にて勤務) |

きっかけは一件のインターン募集。家具作りの延長で見つけた伝統工芸の道
縁もゆかりもない加茂市へ移住し、伝統工芸の世界へ進んだきっかけを教えてください。
もともと高校もものづくり系で、大学でも木工を専攻して木について学んでいました。将来も木に関わる仕事をしたいなと思っていたのと、東京を離れて暮らしてみたいという気持ちがなんとなくあったんです。
就職活動の時期に伝統工芸のインターンシップを調べていたところ、偶然見つけたのが今の『野本桐凾製作所』の募集でした。大学では椅子などの家具を作っていたので、掘り進める彫刻系よりも、組み立てて形にする家具に近い桐箪笥や桐箱の技術に惹かれたんです。大学4年の夏に2泊3日のインターンに参加させていただき、そのまま流れるように就職が決まりました。「移住するぞ!」と意気込んだわけではなく、「まずは行ってみよう」という軽い気持ちで、流れに身を任せて決めたのが本音です(笑)。
失敗できない緊張感と、形になっていく楽しさ。目で見て肌で感じる職人の世界
実際に働き始めて3ヶ月が経ちましたが、普段はどのようなお仕事をされているのですか?
普段は伝統的な桐箪笥や、お酒の箱などの定期的な桐箱作りの作業をしています。最近では、東京のオフィスに納品するカフェカウンターのような、大きな什器(じゅうき)の制作にも関わらせてもらっています。工場で作って、最終的には現地へ行って組み立てることもあります。決まったものをルーティンで作るだけでなく、オーダーメイドの大きな案件も入ってくるので、幅広くて面白いですね。
職人の世界は、失敗が許されない細かい削りの作業など大変な部分もありますが、パーツだった板がどんどん形になって、完成形が見えてくる瞬間はやっぱりすごく楽しいです。周りの先輩方はみんなとても優しくて。言葉での説明だけでなく、先輩たちの作業する姿を「とにかく目で見て学ぶ」「手触りや削り具合を肌で感じる」ことを大切にしながら、毎日やりながら技術を教わっています。

車がなくても大丈夫。実家暮らしから一転、加茂市で開拓した充実の1人時間
初めての1人暮らしや、加茂市での生活はいかがですか?
実はこれまでずっと東京の実家暮らしで、1人暮らし自体が初めてなんです。最初は車を持たずに生活できるか少し心配もありましたが、自転車や徒歩だけでも意外となんとかなっています。
加茂市に来て新鮮だったのは、道を歩いている人が少ないこと(笑)。皆さん車移動なので、すれ違うのは学生さんか犬の散歩をしている方くらいですね。東京にいた頃は30分歩くなんて日常茶飯事でしたが、こっちでの30分歩く感覚はちょっと違って、大自然の中をのびのびと「ウォーキング」を楽しんでいる感覚になります。加茂山公園のエリアにある神社やリス園は、涼しくてお気に入りのスポットです。
車がない分、計画を立ててスーパーで買い出しをして自炊をするようになりました。実家にいた頃は昼まで寝てダラダラ過ごすことも多かったのですが、加茂市に来てからは生活にメリハリが出て、1人の時間をすごく充実して過ごせています。最近は休日に、自分で生地をこねてパンを焼くことにはまっています。
これからの3年間と未来のこと。「動いてみれば、意外となんとかなる」
これからの目標や、移住・伝統工芸に興味がある方へのメッセージをお願いします。
今はまだ仕事を教わっている段階ですが、3年間の協力隊の期間中に、もっと周りを見て自発的に動けるようになりたいです。そして任期が終わった後も、ここで学んだ桐箱や木工の技術を活かして、ものづくりの世界に関わり続けていきたいと思っています。
都会からの移住や伝統工芸の世界と聞くと、身構えてしまう人もいるかもしれませんが、私みたいに「生きてはいけるでしょ」という軽い気持ちで行動してみても、意外となんとかなります(笑)。寂しさを感じる瞬間といえば、実家にいる大好きな猫に触れないことくらいで、友人や家族とはいつでも連絡が取れるので困っていません。あれこれ悩みすぎるより、まずは流れに身を任せて動いてみる。そうすれば、新しい土地でもきっと楽しい暮らしが開拓できると思います。

■ コラム:雨の日を計画的に楽しむ、自転車ライフの小さな知恵
車を持たず、自転車と徒歩で加茂市ライフを満喫している箭内さん。移住してから一番変わった習慣は「毎日入念に天気をチェックすること」だと言います。「今週の金曜日は雨だから、買い出しは土曜日の午前中にずらそう」など、天気予報に合わせて予定を組み立てるのがブームなのだとか。都会では気に留めなかった雨や気温の変化を肌で感じながら、自然のサイクルに寄り添って暮らす心地よさも、この街でもらった素敵な変化の一つのようです。